詩歌藩国日報

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zoom RSS 乙女の祈りー前編ー:豊国 ミロ

<<   作成日時 : 2007/01/27 13:40   >>

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ちくちくちく、と苦労して慣れない刺繍を一刺し一刺し縫った。いびつで不恰好だけど、とにかく気持ちだけは込めた。

出撃前夜。アルティニは同居人に気付かれないよう、こっそり夜更かしして刺繍に励んでいる。


***乙女の祈り***


アルティニ・皆高は最近この詩歌藩国に来た少女である。正しく言うと、拉致されてきたのであった。

実はアルティニには前科がある。友人とその知り合いと、銀行強盗をしようとしたのがそれだ。

友人はいつもお金に困っていて、決して余裕のある生活を送ってはいないアルティニだったがよくお金を貸してあげていた。

彼はアルティニを唯一怒鳴らなかった。いつもにこにこしていた。

他の人はアルティニと話しているとそのうちイライラしたように話を切り上げてしまうか、手をひっぱってどこかの暗がりに連れていこうとするかだったのだが、彼はどちらもしなかった。

だから、アルティニは彼がとても大事だった。
悪いことだとわかっていても、銀行強盗の誘いを断れないくらいに。


銀行強盗の結末は、予想外のものだった。


金庫に無事侵入したのはよかったが、すぐに警報機が作動してしまい、皆そこらへんにあるものを適当に掴んで慌てて逃げ出すことにした。

ところがである。そんなときに、突然何もない部屋の上の方から二人の男性が降ってきたのである。

ただでさえ動転していたのに、アルティニはもう大パニックだった。ただただ足が竦み、手近にあったバッグをとっさに抱え込んだ状態のままひたすら震えていた。

仲間達は全員振り向きもせず逃げてしまった。動けないアルティニをおいて。

…でも、仕方ない。だって警備員がそれからすぐ来たし、捕まったら最悪その場で射殺されるのだから。

だからそのことをアルティニは別に恨んではいない。


結局、その後あまりの恐怖と緊張に失神したアルティニは、その二人の男性の片割れに連れ出されて窮地を脱した。

どうやって逃げたの?他に出口のない金庫の中で、外に警備員さんたちがいたのに、と後々尋ねたところ、ゲートがどうのこうのと数式や記号を交えて説明されてちっともわからなかった。

だから脱出の方法はアルティニには未だ謎のままだ。煙に巻かれた気がしないでもない。

/*/

銀行強盗現場から知らない間に連れ出されて10時間後。アルティニはふかふかのベッドの中で目を覚ました。
おひさまの匂いのするシーツが気持ち良かった。

「あ、起きたあ?なんか具合悪いとことかある?」

ぼさぼさ頭で赤い縁の眼鏡をかけた女の子がのぞきこんできて、アルティニは咄嗟に固まった。誰?誰?知らない人。

「おぅ、固まらない固まらない。ダイジョブ、ボクはあやしい者じゃないよう」

「十分あやしいだろう…」

またもや知らない声。今度は男の人か、女の人かわからない不思議な声。

もっと丁寧に話しなさい。眼鏡の女の子を叱っているのはきれいな人だった。長い髪を後ろで高い位置で結んでいる。
性別がないような雰囲気の、なんかあんまり見ない感じの人だ。アルティニはそう思った。

その人は眼鏡の女の子から自分に顔を向けると、ふ…と目だけで優しく笑いかけてきた。

「ようこそ、詩歌藩国へ。…お嬢さん」

アルティニは思わず頬を赤らめてしまった。




ここは詩歌藩国という国らしい。世界にどんな国があるかなど習ったことないアルティニは、それが自分が元々いた世界には存在しない国名であることに気付かず、へえそうなんだとうなずいた。

「ごめんね。元いた場所に君を戻せたらいいんだけど、ちょっとすぐには無理なんだよねえ」

まさかまた銀行に置いてくるわけにいかないし。他に手ごろなゲートが見つかるといいけど。

眼鏡の女の子こと豊国 ミロはそう考え、相手が不安そうな表情をしたのに気付き急いで続けた。

「あ、でも安心して!ちゃんと生活のほしょーはするからねっ」


/*/

「で、なんで俺だ。あいつ女だぞ?俺んちに置くのは、そのー」

「ははぁなるほど。ひとつ屋根の下にいる女性は誰でも食っちゃうってか?迷わず食うからって宣言デスカ?」

須藤は「違ッ」と叫んで天を仰いだ。くそ、こいつに口で勝とうってのが間違いだった。

「須藤くんが拾ってきたんじゃないか。ちゃんと面倒見なよう」

アルティニがあてがわれた部屋の外。彼女を拉致してきた張本人である須藤は、どうしても眠り続ける彼女が気にかかって、今日一日仕事を抜け出してきてはうろうろするのを繰り替えしていた。

(というか、この少女のことを知った人はなぜか一回はお見舞いと称して部屋を訪れていた。実はアルティニが目覚めたときにいたもう一人の人物、藩王もそれだった。…みんな、異世界人の女の子に興味津々だったのである)

そんな須藤をアルティニに食事を運ぶべくたまたま部屋から出てきた豊国が発見、彼は捕獲されたうえに彼女をお前の家に置けとなぜか申し渡されたのだった。

「まあからかうのはここでやめー。実際のとこさあ、確かに自宅はあるけど須藤くんてほとんど家開けてるじゃん。勤務時間外は開発部に入り浸っちゃってて」

そうなのである。
須藤は今でこそガンブレイズシンガー(パイロット+歩兵)をしているが、入軍前は機械工学を修めており、現在も趣味で兵器開発に携わっているのだった。

ノーギャラな上に現役の兵士ということで、向こうにも歓迎されていて寝泊りすることほぼ毎日という状態なのだった(所属研究者達の手により、開発部に簡易宿泊施設がこっそり作られているのは有名な話である)

「だからさ、会わないじゃない。まず。そこそこ広い家遊ばせとくのもなんだし、それに九音さまが同居させたらおもしろそうだか…っと、なんでもない」

「お前いま『おもしろそう』って言わなかったか」

豊国はにっこりと笑った。


「とにかく、勅命」


須藤はがっくりとうなだれた。

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