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zoom RSS ある、戦火の前に――― - 雪村しふぉん

<<   作成日時 : 2007/01/27 13:26   >>

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場所は詩歌藩国内、小さな工場の一角。
そこには整備の行き届いていない備品ばかりが並んでいた。
武人然と並ぶI=Dの数々。また雪村は口を押さえた。
「……くそっ!」
正味の所、まだ雪村は心を決めかねていた。
詩歌藩国に足を踏み入れたその時、決心したと思っていた決意が揺らいでいる。
その手に握るのは、果たして唯の武器か。それとも―――

「こんな所で何をしている」
突如ドアが開かれた。士具馬 鶏鶴がそこには立っていた。
「士具馬…さん……」雪村は顔をあげた。その表情には極度の緊張が伺える。
士具馬は直感で理解した。―――ああ。この男は怯えているのだ―――と。
それが判るや否や、一つの言葉を投げかける。「早く準備に戻れ」とだけ。
I=Dの一つを軽く小突き、うんうんと頷くと士具馬はすぐに立ち去ろうとした。
「ま…待ってくださいっ」よろめきながらも立ち上がると、雪村はそのまま悲痛に声を繋ぐ。
胸の辺りを押さえて、立ち上がったその体に傷はないというのに。
「どうして……何も言わないんですか……何も言ってくれないんですかっ!」
雪村の表情には汗ばかりが浮かんでいる。
だが士具馬は雪村を一瞥すると踵を返して立ち去る。その目線に写るのは視界の先だろうか。
崩れかける雪村が壁に手をつき、一歩前に進む。
「何で平気な顔をしていられるんですかっ!!……死んでしまうかも……殺してしまうかもしれないのにっ!!!」
その声は既に悲鳴に近くなっている。伝う汗は床に滴として零れた。

士具馬はため息をつくと振り向かずに棘を放った。
「それが『戦争』というものだろう」
一瞬歩みを止めたが、やはり振り向かずに進んでいく。
声にならない叫びが、雪村の口から漏れる。
何か得体の知れない―――恐怖とも、取れるかも知れない―――感情に突き動かされ、雪村は士具馬に走りよると服のすそを掴んだ。
それでもなお、雪村を見ようとさえしない士具馬であったが、次に出てくる言葉は刃ではなかった。
「ここで何を言っても戦況は変わらない…自分が動くことで変えられる未来があるから、俺たちは戦うんだ」
雪村の手を振り払うと士具馬は高らかに靴音を鳴らし、振り向いた。
その眼差しの行く末、その気持ちの行く末は……
「もしお前が死を案じているのならそんな心配は必要ない。この俺が盾になる」
それはI=Dのパイロットとして、一人の戦士として、また雪村を思う一人の人間としての言葉だった。
雪村は言葉が出なかった。目の前に立つ男の雄々しさに、その心に、その想いの強さに。
だから、雪村の考えを縛る鎖は砕かれた。その男『士具馬 鶏鶴』によって。
「行くぞ、時間はもうないんだから」
再度背を向けると士具馬は歩き出していた。
数分前の雪村からは生まれることの無かった『勇気』…それが今確かに此処にある。
「はいっ!!」
その背を追う雪村の背中は、これまでの彼の人生の中でもっとも大きな背中だったのかもしれない。
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