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zoom RSS 貧乏兵士の日常 - 士具馬 鶏鶴

<<   作成日時 : 2007/01/27 13:22   >>

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  I=D開発の知らせが国中を駆け巡ったその数日後、めまぐるしい変化が詩歌藩国に訪れた。戦争準備に伴い藩国内の財政状況の見直しの為の吏族招集、I=Dのテスト飛行、主戦場となる冬の京への支援目的とした帝国王女陸軍の結成、I=Dのテスト飛行も終わらぬ内に前倒しで行われたI=Dの量産体制への移行、そして兵站物資の調達を目的とした食糧増産命令。そのどれもが国民の不安を煽り、「戦時状況」を作り上げるには十分な材料であったといえる。事実、戦時体制の導入を正式に発表した藩国内では物資の不足が起こるのではという考えが国民の間で蔓延し、日用品の買いだめ目的の国民が商店に殺到するといった出来事が多発した。日常の破壊という戦争の恐怖が、確実に詩歌藩国にも及んでいた。

 そんな中、貧乏兵士 士具馬 鶏鶴は悩んでいた。それも、随分真剣に。
「・・・まずい、このままだとすぐに生活できなくなる。」
ひどい話である。もう少し藩国の非常事態に危機感を感じてもバチは当たらないのではないだろうか。しかし、彼の声のトーンがその切実さを聞く者に訴えかけ何も言わせはしなかった。
「アルバイトを増やすか、でもこれ以上アルバイトに時間を割くと訓練に支障をきたす恐れがあるし。うーん・・・」
そんな自問自答を繰り返しながら家計簿とにらめっこをすること10分余り。
「・・・だめだ、さっぱり打開策がみつからない。」
ついに降参、寝転がりにらめっこの相手を天井に変える。
「にしても、どうしてこんな急に物の値段が上がっているんだろう。」
そんなことを呟いてから数分後、ふいに体をガバッと起こして、
「って何をしてるんだ、私は。もうすぐバイトの時間なのに。」
急いで身支度をして、部屋を飛び出す。アルバイト先までの全力疾走、これもお金と時間のない彼の訓練のひとつだった。

 アルバイト先までの道すがら、彼は、今日は随分人通りが少ないと不思議に思ったがすぐに気にならなくなった。こんな日もあるだろうと軽く考えた。実際、彼の中では自分の家計簿の事で頭の中はいっぱいだったし、彼にとってこの問題は決して軽視できる物ではなかった。

 アルバイト先の酒場に到着。
「・・・メリハリ、メリハリ。」と小さく呟き、表情を引き締め。
「こんにちはー!」と元気に挨拶。
「はい、こんにちは。今日も元気だね、士具馬君。」いつもの返事を返すマスター。
「元気がモットーですから、私は。それでは、今日もよろしくお願いします。」と言いながらマスターに一礼。これもいつも通り。
「はい、今日もお願いしますね。」マスターとのいつものやりとりを経て仕事にはいる。
 それから数時間後。いつもの皿洗いのアルバイトを終えて、マスターから一日の日給をもらい次のアルバイトに行こうとした時。
「・・・さて、次のニュースです。先日各国合同で行われましたI=Dテスト飛行も成功し、各国ではI=Dの量産体制がとられています。テスト飛行はすくなからず順風満帆とは言いがたくパイロットの死亡も懸念されていましたが、死亡者をだす事もなく試験に参加した各国は胸をなでおろしています。では、次のニュースです。・・・」そんな声が士具馬の耳に入った。その途端、彼は酒場の新聞に飛びついた。紙面に踊る戦時発令の文字。それらを見た瞬間、彼の頭の中にあった疑問は吹き飛んだ。(貧乏暇なしを体現しつつある彼には世界情勢の為に新聞をとってなどはいなかった。)物価の急激な上昇も、バイト先までの道すがら感じた違和感も全てが「戦時下」という言葉で片付けられてしまった。
「なんだか、最近こんなのばっかりな気がするな。」なんて一人事を呟きながら新聞を折り畳み、
「マスター、新聞ありがとうございました。」と言ってマスターに新聞を渡した。
「どういたしまして。今日もおつかれさま。」
「おつかれさまでした、明日もよろしくおねがいします。」そう言って士具馬は店を出た。

 その日の晩、彼は家計簿と再び向き合った。
「・・・よし、やるぞ。」そう呟いて、貧乏兵士は鉛筆を握りしめ家計簿との戦いを再開した。

 数日後、彼は新聞配達のバイトを始めた。今まではあまり金銭的に良くはない新聞配達のバイトを極力しようとはしなかったが、いい加減彼も今のままではだめだと思ったのだ。バイト時間を減らすわけにはいかないが、かといって新聞の一部も読まない今の状況を許すわけにもいかなかった。昔のような流れ者ではなかったから。そして、それを許すような時勢でもなかったから。
新聞配達を始めた代わりに今までお世話になったバイト先の一つであるクリーニング屋のアルバイトをやめて、酒場でのアルバイトの時間を少し延ばしてもらうことにした。この事については酒場のマスターは快諾してくれ、クリーニング屋の店主も随分惜しみながらも最後は納得しくれた。
「・・・悪いことしたかなぁ。」と配達の途中に呟く。流れ者の自分を快く受け入れてくれたアルバイト先を辞めるのはどうしても後ろめたさを捨て切れなかった。
「でも、こればっかりは仕方ないよな。うん。」そう、自分を納得させる様に力強く口にした。考えて考えぬいた結果の選択だった。そして何より国民になった自分と流浪人だった自分とのケジメをつけようという自分なりの決意の意味合いもこの新聞配達のバイトには含まれていた。

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